ちょっといいお話
- 公開日
- 2013/09/15
- 更新日
- 2013/09/15
学校の窓
豊橋鉄道・渥美線の車内での話。
豊橋市の松下芳子さんが、高師駅から乗り込むと、
満員で座席は空いていなかった。
重い手荷物があったので「弱ったな」と思っていると、
膝の上に幼稚園の年長さんくらいの子どもを抱いた若い母親が、
「どうぞ」と言って席を譲ってくれたので、遠慮なく座らせてもらった。
その後、母子は少し離れた窓際に移動し、ずっと立っていた。
終点の新豊橋駅に着いた。
松下さんは乗降客をかき分けて母子のところへ行き、
「先ほどはありがとうございました」
「坊やありがとうね」
とお礼を言った。
子どもはピョコンと頭を下げてにっこり笑った。
母親はこう返事をされた。
「いいえ、こちらの方が景色がよく見えて、かえって良かったですよ」。
松下さんはこの一言に感銘を受けた。
席を譲られた人は、譲った人に対して申し訳ないという気持ちも抱く。
そんな心の負担をかけさせまいとして、
口から発せられた言葉に違いないと思ったからだ。
「もう十数年も前のことですが、今も忘れることができません。
人に親切にする時も『かえって良かったです』と相手のことを気遣う。
なんて美しい日本語なのでしょう。
あの母親のお子さんゆえに、
きっと礼儀正しい大人になっていることと思います」
と松下さんは話す。
中日新聞「ほろほろ通信」より引用