学校日記

第28回卒業証書授与式 式辞

公開日
2012/03/08
更新日
2012/03/08

学校行事

 校庭の桜も、たくさんのつぼみをふくらませるようになりました。弥生の風はまだ冷たいですが、次第に春を感じさせる柔らかな日差しとなってきました。春の到来は、夢や輝く未来を象徴しているようにも思われます。
 ただ今、みなさんに卒業証書を授与しました。引き締まった表情の中に、石尾台中学校での三年間を立派にやり遂げたという大きな満足感と、新しい世界へ出発するのだという力強い決意が感じられ、大変うれしく思います。
 本日は、第28回卒業証書授与式を挙行するに当たりまして、春日井市教育委員会様、PTA会長様、春日井高等学校教頭様はじめ、日頃より本校の教育活動にご理解ご支援をいただいております地域の多数のご来賓の皆様に、ご多用の中ご臨席賜りました。高い席からではございますが、心よりお礼申し上げます。誠にありがとうございます。
 あらためて、110名の卒業生のみなさん、卒業おめでとうございます。3年前、真新しい石中の制服に身を包み、希望に胸をふくらませた入学式を覚えていますか。あれから3年間の月日が過ぎました。友人との語らい、ともに汗や涙を流した部活動、絆を確かめ合った体育大会や合唱コンクール、自らの進むべき道の選択で思い悩んだ日々。そのどれをとっても、みなさんの成長にとって、貴重な歩みだったと思います。
 初めてみなさんに出会ったのは、2年前の4月でした。とても元気な学年で乗りが良く、時には羽目を外しすぎて注意されることもありましたが、学習・行事・部活など何事にも、全力で取り組んでいた姿が忘れられません。特に、2年生の野外学習のキャンプファイヤーで、全員がファイヤーを囲んで踊っていた姿は今でも心に残っています。
 石中の最高学年となった皆さんは、素晴らしい力を発揮してくれました。伝統である石中生徒会の役員選挙には、やる気のある人が立候補してくれ、生徒会活動をリードしてくれました。東日本大震災の支援にいち早く立ち上がり、募金活動や応援メッセージの掲示に取り組んでくれました。みなさんの思いは、2年生中心の後期生徒会に引き継がれ、本校に一時避難していた生徒が通う福島県南相馬市の原町第一中学校生徒会との交流が始まりました。
 体育大会・文化祭などの学校行事や部活動などにも、常に積極的に参加し、後輩である1年生・2年生をよくリードし、石中の牽引役となってくれました。
 今年度の文化祭は、大変多くの有志発表によって盛り上がりのあるものとなり、まさに「乗りのよい学年」を象徴するものでした。さらに、合唱コンクールに対する取り組みの真剣さと学級の団結力に心を打たれました。一組の『IN TERRA PAX』、二組の『流浪の民』、三組の『あなたへ』、どのクラスの歌声も素晴らしいものでした。その他にも、数え上げればきりがないほど、様々な活動を通して石尾台中学校を支えてくれました。この2年間、共に学校生活を過ごせたことに感謝しています。本当にありがとう。
 そのようなみなさんとの別れに際して、2つの話をして卒業のはなむけとしたいと思います。
 まず第一は、「忖度」という言葉をみなさんに送ります。
 漢字では、「ソン」はりっしんべんに一寸法師の「寸」と書き、「タク」は温度の「度」と書きます。「りっしんべん」は心を意味し、「寸」は少しの意味、「度」ははかるということを表します。つまり、『ソンタク』とは、目の前にいる人の心を少し推しはかってあげるという意味です。世界に通用するこれからの日本人には、YESとNOをはっきりと伝えることが求められています。自分の意志を自分の言葉で伝えることはとても大切ですが、その時の相手の心持ちや状況を考えないと思わぬ誤解を生むことがあります。わたしたち日本人は、相手の心を推しはかりながら生活することを年長者から教えられ育ってきました。どのような状況でも、必ず相手にも事情があり、想いや感情があります。自分の思いだけで判断するのでなく、相手の状況を察してあげる優しさを持つことが、気持ちにゆとりが生まれ、自分自身にプラスとなるのです。
 「よく見て、相手がして欲しいことをしてあげる。自分がもし、自分のやって欲しいと思っていたことを相手がしてくれたら、感謝の気持ちを忘れない。シンプルだけれど、こうした心構えを持ち続けることが、日常生活の幸せにつながっていくのかもしれません。」これは、日本屈指のホテルであるホテルオークラに二十七年間勤めたベテランホテルマンの方の言葉です。先日みなさんに、「二十一世紀に生きる日本人」と題して行った授業の中では、「人口の減少」「三十一年ぶりの貿易赤字」「財政の不均衡」などが、これからの日本を担うみなさんにも解決が求められていることを話しました。日本の将来について明るい話題が少ないですが、日本人の持つ勤勉さ、「忖度」の言葉に表される相手の気持ちを推しはかる優しさを持ち続けることが、明るい日本の未来につながるヒントになりそうです。これからの日本を担っていくみなさんの活躍に期待します。
 二つめは、「自分の選んだ道は、自分を信じて突き進むこと」についてです。
 昨年10月、アップルコンピュータの最高経営責任者として有名なスティーブ・ジョブズ氏が亡くなりました。だれもが使っているパソコンの原点となったアップルコンピュータやipadの開発など独創性のある業績を残したジョブズ氏は、多くの印象的な言葉を残しました。中でも7年前にアメリカのスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、自らの生い立ちや闘病生活を織り交ぜながら人生観を語り、大変多くの感動を集めたものでした。「先を見通して点をつなぐことはできない。振り返ってつなぐことしかできない。だから将来何らかの形で点がつながると信じなければならない。何かを信じなければならない。」
 与えられた課題や活動に取り組む時に、なぜ必要なのかと考えることはないでしょうか。また、今やってみたいと思いながらも、そのことが将来役に立つのかと不安になることはありませんか。どんな人も、先を見通して全て行動することはできません。今やっていることが、いずれ人生のどこかで結びつくと信じるしかありません。車の轍と同じように、歩めば道はおのずとできるのです。みなさんは、義務教育を終え、自分の意志で進むべき道を切り開いていく時期を迎えました。戸惑うことや時には大きな壁に突き当たり悩むこともあると思います。そんな時こそ、自分の選んだ道を信じて一歩前に踏み出してください。その一歩が、将来大きな差を自分にもたらしてくれます。
 終わりになりましたが、ご列席の保護者の皆様方、本日は、お子さまのご卒業、誠におめでとうございます。心からお慶び申し上げます。3年前の小学校の卒業式そして中学校の入学式、さかのぼって9年前の小学校の入学式、あんなに小さかったのにと、成長した我が子の姿に、改めて感無量ではないでしょうか。本校に入学以来、教育活動全般に渡り、温かいご支援とご協力をいただき、本当にありがとうございました。高い席からではございますが、お礼申し上げます。私ども教職員一同は、生徒一人一人を大切にする気持ち、教育にかける情熱は、いつも忘れないように心掛け、全力で取り組んで参りました。卒業後も、何かございましたら、いつでもご相談ください。
 昨年の3月11日の東日本大震災から間もなく1年となります。避難所での生活や復旧・復興への取り組みなど、日本人が祖先から受け継いできた助け合いの精神が、『絆』という言葉に集約された年でした。
 卒業生のみなさん。先日の卒業生を送る会でみなさんが歌ってくれた『ここにいる幸せ』の中にあった「あなたと出会えたことが 私にとって人生の宝物です。こんな広い世界の中で めぐり会えたこと それは奇跡」という歌詞を憶えていますか。一人の人間が一生の中で顔と名前を覚えられるくらいに出会える人は、およそ5000人だそうです。その中で三年間を共に過ごした石中の仲間は、とても大きなつながりがあります。その『絆』を大切にしながら、石中生として過ごした誇りを胸に、自分の意志で進むべき道を切り開いていってください。
 卒業生110名全員の今後ますますのご活躍とご健康をお祈りし、式辞といたします。
 
   平成24年3月8日  春日井市立石尾台中学校長 渡辺 徹